「お金がない!」と繰り返す。お金がないからデイサービスに行かない、ご飯もいらないと言う。少し持たせれば、世話になっている人へ渡してしまう――。認知症の方のお金への強いこだわりは、家族にとって悩ましい問題です。大切なのは、本人の不安や「人に迷惑をかけたくない」という気持ちを受け止めながら、金銭トラブルを防ぐ仕組みを作ることです。
課題の本質
「お金がない」は、実際の所持金だけを意味しているとは限りません。
認知症になると、財布や通帳を自分で管理することが難しくなっても、「自分のお金は自分で管理する」という感覚が残ることがあります。すると、管理できない不安が「お金がない」という言葉になって表れる場合があります。
また、「お金がないからデイサービスに行けない」「お金がないからご飯はいらない」という発言には、サービスや食事そのものへの拒否ではなく、費用を払えないことへの心配が隠れている可能性もあります。
さらに、「あんたには世話になっているから、これをあげる」という行動も、単純な浪費とは限りません。本人なりに「お世話になったら、お礼をする」という考えがあり、その気持ちを現金で表していることがあります。
「お金を渡さないように説得する」だけではなく、「なぜお金が必要だと感じているのか」を考えます。そのうえで、本人の気持ちは否定せず、現金を自由に扱わなくても安心できる環境を整えます。
実践のコツ
```1)まず「お金がない」という不安を受け止める
- 手順
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「お金はあるよ」「さっき説明したでしょう」とすぐ訂正する前に、「お金のことが心配なんだね」と受け止めます。
その後、「お金のことはこちらで考えているから大丈夫だよ」と安心につなげ、今することを短く伝えます。
- 理由
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本人が求めているのは、正しい金額の説明より「大丈夫だ」と感じられる安心かもしれません。
事実を何度も説明しても納得できない場合は、説明を繰り返すほど不安が強くなることがあります。
- 観察ポイント
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お金の話をするときの表情や声の強さ、財布を探す行動を見ます。
特に、外出前・食事前・サービス利用前など、訴えが強くなる場面を記録すると傾向が見えてきます。
- よくある失敗
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「そんなことない」「ちゃんとお金はある」と何度も言い聞かせることです。
正しさを伝えることより、不安を小さくする声かけを優先しましょう。
2)お金を渡す代わりに「感謝を伝える方法」を作る
- 手順
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本人が「世話になっているからお金をあげたい」と言ったら、まず「お礼をしたいんだね」と気持ちを認めます。
そのうえで、「ありがとうと言って伝えよう」「一緒にお礼を言おう」など、現金以外の方法を提案します。
- 理由
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止めたいのは「感謝する気持ち」ではなく、他人に現金を渡してしまう行動です。
気持ちと行動を分けて考えることで、本人の尊厳を保ちながらトラブルを防ぎやすくなります。
- 観察ポイント
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誰に対して、どのような場面でお金を渡そうとするのかを確認します。
「世話になった」と感じる相手が特定されている場合は、その気持ちを別の形で表現できないか考えます。
- よくある失敗
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「そんな人にあげちゃダメ」と本人の気持ちまで否定してしまうことです。
「お礼をしたい気持ちはわかったよ」と認めてから、別の方法へ誘導します。
3)現金を持たせないなら「取り上げる」形にしない
- 手順
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本人が現金を管理することが難しく、施設でも現金を持たせない方針なら、家族だけでなく施設と管理方法を共有します。
「お金を取る」のではなく、「大事なものだからこちらで預かっておくね」「必要なときは一緒に確認しようね」と説明します。
- 理由
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突然財布を取り上げると、「盗られた」「自分のお金を隠された」と感じ、不信感につながることがあります。
本人の安全を守るための管理であることを、できるだけ一貫した言葉で伝えます。
- 観察ポイント
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財布を探す、職員や家族を疑う、怒る、落ち着かなくなるなどの変化を確認します。
現金を持たなくなった後に不安が強くなっていないかも見ておきましょう。
- よくある失敗
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家族と施設で説明が違うことです。「家族は預かっていると言うのに、職員は知らない」という状態は混乱を招きます。
本人への説明と対応方法を、関係者でそろえておくことが大切です。
4)「お金がないから食べない・行かない」には別の安心を示す
- 手順
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「お金がないからご飯はいらない」と言われたら、「ご飯代のことは心配しなくて大丈夫」と短く伝えます。
「今日は一緒に食べよう」「いつものところへ行こう」と、金銭の話から具体的な行動へ戻します。
- 理由
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金銭への不安が強いと、生活に必要な食事や介護サービスまで「お金がかかるから避けるもの」と感じることがあります。
そのたびに長い説明をするより、「費用の心配はしなくてよい」という安心を繰り返し伝えるほうが対応しやすい場合があります。
- 観察ポイント
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食事やデイサービスの前だけ訴えが強くなるのか、日常的にお金の話が続くのかを確認します。
食事量や外出への抵抗など、生活への影響も一緒に見ていきます。
- よくある失敗
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料金や制度について細かく説明し続けることです。
理解できないことを責めるのではなく、必要な情報を短く伝え、安心できる声かけに切り替えましょう。
5)施設入所前に「金銭対応」を具体的に共有する
- 手順
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入所前に、家族から施設へ「お金がない」という訴え、他人へ現金を渡そうとする行動、サービスや食事への影響を具体的に伝えます。
本人が訴えたときの声かけや、現金を求めたときの対応についても相談しておきます。
- 理由
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施設に入った後に初めて問題がわかるより、入所前から情報を共有しておいたほうが、対応を統一しやすくなります。
「現金を持たせない」という方針だけでなく、本人の不安をどう支えるかまで共有することが重要です。
- 観察ポイント
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訴えが増える時間帯、特定の相手への金銭贈与、財布へのこだわり、食事やサービス利用への影響を伝えます。
入所後も変化があれば、家族と施設で情報を更新します。
- よくある失敗
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「認知症なのでお金を持たせないでください」と管理方法だけを伝えて終わることです。
本人の性格やこれまでのお金との関わりも含め、「何を不安に感じているのか」を伝えると、より本人に合わせた支援につながります。
チェックリスト
- 「お金がない」と訴える場面を確認する
- 財布や通帳へのこだわりを確認する
- 他人へ現金を渡そうとする場面を把握する
- 食事やデイサービスへの影響を確認する
- 本人の「お礼をしたい」気持ちを否定しない
- 現金を管理する人・方法を決める
- 家族と施設で対応方法を統一する
- 急な変化は医療職にも情報共有する
ミニQ&A
A. 本人が自分で安全に管理できず、他人へ渡してしまうなどの具体的なリスクがある場合は、安全を守るための管理が必要になることがあります。ただし、現金を持たせないことだけを目的にせず、本人が選べることや感謝を表現できる機会を残すことも大切です。
A. 毎回同じ説明を繰り返す必要はありません。「心配なんだね」「お金のことはこちらで考えているから大丈夫」と安心を伝え、食事や外出など目の前の行動へ自然に戻します。訴え方が急に変わった場合は、その変化も周囲と共有しましょう。
